一口に「障がい福祉事業」と言っても、本当に様々な形態があり、それぞれに対象とする利用者や、サービスの内容の違いがあります。
今回は、主に小学生から高校生までの障がいのある子どもに対して行う「放課後等デイサービス事業」を例に、その設立の仕方について書いていきます。
放課後等デイサービスとは
放課後等デイサービスとは、6歳から18歳までの就学年齢にある子どもを対象にした生活等の支援をおこなう事業です。
「放課後等」とあるように、学校が終わってからの時間や、夏休みなどの長期休みに子どもを預かり、生活全般における自立を目的として様々な活動をしています。放課後等デイサービスにも様々な種類があり、何に重きを置くのかによって、その活動内容も様々です。
例を挙げると、主に学習支援を中心とした施設、運動機能を高める支援を中心とした施設、将来の就職を視野に入れた支援を中心とする施設など様々な特徴があり、利用者の保護者は自分の子どもの特性と目的に応じた施設を選ぶことができます。
設立の方法
放課後等デイサービスを含む障がい福祉施設を設立するためには、いろいろな要件をクリアする必要があります。
法人であること
障がい福祉事業は法人でなければ事業をおこなうことができません。法人とは、いわゆる株式会社や最近その割合が増えてきた合同会社などがありますが、それ以外にもNPO法人、社団法人なども挙げられます。
障がい福祉事業を始める場合、まずはどの形態の法人にするかを決めることが必要です。そのためには、役員の数、出資する額、将来の事業の展望等、どのような人でどのような運営を行っていくのかについて考えたうえで、その目的に合った法人の種類を選ばなくてはなりません。
法人設立については、こちらの記事にくわしく載せていますので、選ぶときの参考にしてください。
場所的な規制
場所的な規制によって、一定の建築物を設置できない場所があります。
土地計画法によって、「市街化調整区域」と定められた区域がこれにあたります。この市街化調整区域は、むやみな市街地化を防ぐために建築の規制がされており、当事務所のある神戸市でも、六甲山系や農村地帯を中心に指定された地域があります。
この市街化調整区域では、次のような建物しか建てることはできません。
- 農林漁業用施設、農業従事者の住宅
- 図書館、公民館、変電所等の公共上必要な建築物
- 車庫、物置など、現に建てられている建築物に付属する建築物
原則、障がい福祉事業用の建物は、上記に該当しないので新しく建築物を建てることはできず、事業を営むことはできません。
必要な人員配置
障がい福祉事業には様々な形態があることは前述しましたが、各事業所ごとにおかなければならない人材が決められています。
例を挙げると管理者、サービス責任者、生活支援員、医師、看護師、職業指導員、児童指導員など、その事業サービスに応じた人材を備える必要があります。さらに、その人材ごとの人数も決められており、そのうちの一種類でも人員が足りていないと事業を開始することはできません。
放課後等デイサービスの人員配置については、次のとおりです。(重症心身障がい児型の施設の場合は、さらに多くの人員が必要となります)
- 児童指導員または保育士児童の数が(10人までの場合は2人で1人以上は常勤)
- 児童発達支援管理責任者(1人以上で、うち1人以上は常勤かつ専任)
- 機能訓練担当職員(機能訓練をおこなう場合)
- 看護職員(医療的ケアをおこなう場合。医療機関との連携がある場合には置かないことができる)
- 管理者
建築の基準
床面積の規制
障がい福祉事業をおこなう場合、事業所とする部分の床面積が、200㎡を超えると、建築基準法上の「用途変更」の手続きを行わなければならない場合がありますので、事業所の場所を管轄する役所に問い合わせて確認することが大切です。
消防法による規制
事業所の物件によって、消防法で定められている設備の設置が求められます。自動火災報知機や誘導灯、スプリンクラー等が挙げられます。
また、事業の種類によって、必ず設置しなければならない消防設備もあります。
設置されるべき設備が設置されているかについては、消防署の調査を受けたうえで、「防火対象物使用開始届出書」を事業開始のための申請をおこおなうときに一緒に提出しなければなりませんので、事前に消防署に連絡を取り、どんな設備が必要なのかについて確認した上で、調査日までに確実に設置しておく必要があります。
障がい福祉事業の種別による設備基準
上記以外にも、サービスの種別ごとにそれぞれの設置基準が定められています。
放課後等デイサービスの場合は、次のとおりです。
- 訓練に必要な機械器具等を備えた指導訓練室(3㎡/人)
- 支援の提供に必要な設備(鍵付き書庫、パソコン等)
- 相談室
- 事務室
- 手洗い設備
- トイレ
これらを専ら放課後等デイサービスの事業として使わなければならないものとされています。
その他の必要条件
近隣住民への説明
事業所の工事等を行う場合、近隣住民への説明が必要なケースもあります。事業開始後のことを考えた場合、近隣の方々の理解や協力があるのとそうでないのとでは、事業の運営にも大きく影響します。事業を始める前から良い印象をもっていただくことで、お互いにとって気持ちよい関係が築けるようになれば、利用される方々にとっても居心地のよい環境になることでしょう。
駐車スペースの確保
送迎サービスなどを行う場合、事業所自体に駐車スペースがあればよいのですが、ない場合は近くの駐車場を確保する必要があります。事業所と駐車場があまりにも離れていると、利用する人にとっても不便に感じられることと思います。その場合は、近くに駐車場が確保できる物件を探し直すことも検討しなければならないかもしれません。
申請までの流れ
申請までの細かい流れについては、都道府県によって異なります。ここでは、神戸市を例に、指定を受けるまでのおおよその流れ(管轄の役所とのやりとり)を書きますので、一つの参考にしていただけたらと思います。
①事前面談の予約
障がい福祉事業をおこなうには、管轄の役所に事前面談をしなければなりません。ただし、突然役所に行っても受け付けてはくれません。まずは、役所に電話で連絡を取り、事前面談をいつにするかを決めたうえで予約することになります。
神戸市の場合、この予約は、事前面談を実際におこなう日の2か月以上前にすることになっていますので注意が必要です。
②申請書類一式を準備する
面談までの間に役所に提出する書類一式を書いたり、集めたりします。この書類は、障がい福祉事業の種類によって違いますので、何が必要なのかを役所のホームページ等で調べて、漏れがないように用意します。
この記事では、放課後等デイサービスを例に挙げますので、参考にしてみてください。
- 申請書
- 付表
- 法人の登記事項証明書
- 勤務体制・形態一覧
- 組織体系図
- 管理者及び児童発達支援管理責任者経歴書
- 実務経験証明書・資格証・研修修了証の写し
- 事業所の平面図
- 設備・備品等一覧
- 事業所の写真(外観、内観、基準上必要な設備)
- 苦情解決措置の概要
- 誓約書
- 協力医療機関との契約内容
- 人権擁護・虐待防止研修報告書
- 運営規定
- 事業計画書
- 収支予算書
- 事業所の使用権原を証する書類
- 賠償責任保険加入証書の写し
- 障がい児給付費算定に係る体制等に関する届出書
- 開始届
- 業務管理体制の整備に関する事項の届出書
- 防火対象物使用開始届出書
- 確認済証、検査済証 など
その他都道府県によって、必要な書類がある場合がありますので、問い合わせて確認することが大切です。
③申請書類一式を提出
②で用意した書類を、事前面談の1週間前までに提出します。書類に必要事項が書かれていなかったり、補正が必要であったりする場合は、連絡が入りますので、早めに訂正や差し替えをします。
④事前面談
①で面談予約をした日に事前面談に行きます。管理者、またはサービス管理責任者の方等、運営についての説明ができる人が行くことになります。
この面談では、人員や設備、運営方針などについて聞かれますので、答えられるように準備をしておきます。書類作成のときに、ある程度方針は固まっていると思いますので、そのままを答えます。
この面談で、書類の補正が入ることもあります。
⑤書類申請
事前面談で、書類の補正を求められるなどして、その後補正を行い、書類一式が整ったら正式に申請します。
この申請日によって、指定日(事業の開始が可能となる日)が決まります。この指定日は、毎月1日と決まっており、書類の申請は、通常その前々月の20日が期限となっています。
例えば、9月1日に指定を受けようと思うならば、前々月の7月20日までに提出が必要となります。さらに、込み合うことが予想される4月1日の指定の場合は、1月末までに提出することが必要になるので、注意が必要です。
⑥書類審査
申請された書類の審査がなされます。審査機関は通常約30日ですが、ここで補正があれば、それよりもかかる可能性があります。
補正がある場合には連絡が入りますが、この場合、指定を受けようとする日の1週間前までに済ませる必要があります。1週間以内にできなかった場合は、指定日が次の月になる可能性がありますので速やかにおこなうことが大切です。
⑦指定
書類審査が無事終わり、基準を満たすと判断されたときは、指定を受けることになります。事業所となる場所に指定日や事業者番号等が記載された指定通知書が送付されます。
この指定日当日から事業をおこなうことができるようになります。
指定を受けた後の各種届出
晴れて指定を受けて、事業を開始することになった場合、いろいろな官公署等への届出が必要になります。
主に次のようなものがあります。事業所の種類によってはほかにもまだまだ必要なものがありますので、確認してください。
税務署
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書 など
都道府県、市町村
- 法人設立届出書
労働基準監督署
- 保険関係成立書
- 概算保険料申告書
ハローワーク
- 適用事業所設置届
- 被保険者資格取得届
年金保険事務所
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
まとめ
今回は、障がい福祉事業のうち、放課後等デイサービスについてを例に申請から指定、そしてその後の手続きまでを書きました。
障がい福祉事業全般にあてはまるところも多いですが、それぞれの事業によって申請書類や人員、設備など異なるところもあります。
まずは、おこなおうとする事業が、どの形態にあてはまるのかを正確に知り、そのうえで役所に相談することから始めるのがよいでしょう。
とは言っても、細かいルールもあり、申請書類も多岐に渡るため、事業の順にと並行して手続きを行うことは、困難な部分があります。
専門家である行政書士に手続きを任せた方が、手間も省けて準備に専念できるでしょう。
当事務所では、税理士や司法書士の方と提携し、税務相談から法人設立、その後の手続きまでサポートいたします。
神戸、大阪周辺で、障がい福祉事業の運営をお考えの方は、是非ご連絡ください。
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